そのままがいい・自分の中にある幸せ

みなさんは次の問いにどう答えるでしょうか?
「スポーツで人の性格を変えることができる」
「数学で人の性格を変えることができる」
私は大学のコーチングの授業でこの質問を学生に投げかけます。すると、多くの学生――およそ3分の2が「スポーツなら性格を変えられる」と答えます。反対に、「数学で性格を変えられる」と答える人はほとんどいません。
しかし、私の答えは少し違います。
スポーツでも、数学でも、「性格を変える」ことはできない。
これが私の考えです。
では、スポーツをする意味は何でしょうか?
私が思うに、スポーツによってできるのは「自分の性格をコントロールする力を身につけること」です。
たとえば、もともと内向的で自己表現が苦手な人がいたとします。性格そのものを変えることはできませんが、スポーツの中では、試合の大事な場面で自分を表現しなければならない瞬間があります。仲間に声をかけ、ボールを要求し、挑戦する。そうしなければ楽しめないし、勝つこともできません。スポーツという環境が、自分の内側にある性格を“どう扱うか”を自然と学ばせてくれるのです。
では、数学にはそれがないのか?
私はそうは思いません。
「イモニイ」の愛称で知られる井本陽久先生。神奈川県鎌倉市の栄光学園中学・高等学校で27年間数学を教えられた後、「いもいも教室」を主宰されています。先生の授業は、まさに“コーチング”そのものでした。
井本先生は、生徒に「できる」「できない」を問うのではなく、存在そのものを認め、信じ、寄り添います。解答を急かすのではなく、「考えること」を楽しませる。生徒が自分で気づき、自分の中から答えを見つけるまで待つ。
その関わり方は、まるでスポーツの現場で選手を信じて見守るコーチと同じです。
先生の教室では、間違えることも、悩むことも、すべてが価値ある時間になります。
そして、先生はいつもこう語られます。
「そのままでいいんだよ」
この言葉には深い意味があります。
努力を否定せず、成長を止めるわけでもなく、今の自分の存在そのものをまず認めること。そこから本当の変化が始まるのです。
「そのままがいい」というのは、怠けではありません。
ありのままの自分を受け入れ、その自分で挑戦し、考え、行動すること。そこに人としての幸せがある――私はそう感じます。
スポーツでも、数学でも、人を変えるのではなく、人が自分を理解し、自分を信じて生きていく力を育てる。
井本先生の授業も、スポーツの現場も、根底に流れるのは「そのままでいい」という愛のコーチングです。
「そのままがいい」――その言葉を受け入れたとき、人は初めて“自分の中にある幸せ”に気づくのかもしれません。
SPORTS BAR FEEL FREEオーナー
宮﨑 善幸
