コーチと選手の人間的な関わり方

コーチも選手も、同じ人間です。練習中や試合の場では、お互いが“ON”の状態で向き合い、役割を全うします。しかし、その時間が終われば、同じ人間同士として“OFF”の顔で接することも、私は非常に大切だと考えています。

昔から「将兵寝食を共にせず」という言葉があります。これは、立場の異なる者が過度に私生活を共にすると、規律や指揮命令に悪影響を及ぼす可能性があるため、距離を保つべきだという考え方です。確かに、立場の混同や慣れ合いは避けなければなりません。しかし、だからといってOFFの時間まで完全に関係を断つ必要はないと、私は思っています。

中には、プライベートの時間には一切選手と関わらないというスタイルのコーチもいます。それも一つの考え方です。しかし私は、ONとOFFをしっかり切り替えた上で、OFFでも選手と人間的な付き合いを大切にしてきました。

OFFの時間には、指導者としての立場を一度置き、素の自分で選手と接します。もちろん、節度を守り、規律を乱さない範囲での関わりです。このスタイルを続けてきた理由は、OFFでの交流を通じて、選手が見せる表情や言葉、態度、考え方をより深く知ることができるからです。そうした情報は、ONの時間における指導にも必ず活きてきます。そして単純に出会った選手との人間的な繋がりこそが私の人生の財産と考えているからです。

例えば、練習中には表に出さない選手の悩みや価値観が、OFFの会話や日常のふとした瞬間に見えてくることがあります。その背景を理解していれば、同じ指導でもより響く言葉をかけられるし、適切なサポートができるようになります。

また、コーチが人間らしい一面を見せることは、選手にとってもプラスの影響があります。「コーチも同じ人間なんだ」と感じてもらえれば、信頼や親近感が増し、心理的な距離が縮まります。選手が安心して本音を話せる環境ができれば、チーム全体の結束力も高まります。

もちろん、この関係性はあくまでONとOFFの切り替えが前提です。境界が曖昧になれば、緊張感や規律が失われる危険もあります。だからこそ、ONの場では一切の勝負への甘さを排し、全力でコーチングをする。そしてOFFでは、フラットな一人の人間として向き合う。この切り替えを徹底することが、私のスタイルです。

指導者としてのキャリアの中で、このやり方が常に正しいと言い切れるわけではありません。賛否両論もあるでしょう。しかし、私はこのスタイルを貫くことで、多くの選手との信頼関係を築き、その成長を間近で見ることができました。そして何より、この関係性が選手のパフォーマンスや人間的成長にも良い影響を与えてきたと確信しています。そしてコーチである私も選手から多くのことを学ばせていただきました。

コーチと選手という立場の前に、私たちは同じ人間です。だからこそ、ONの時は全力で役割を果たし、OFFの時は同じ目線で人として向き合う。その両面が揃って初めて、真の信頼関係が生まれるのだと、私は信じています。

SPORTS BAR FEEL FREEオーナー

宮﨑 善幸

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