主体性が芽生える瞬間は、自身のタイミング次第である

選手の主体性が芽生える瞬間。それは、誰かに言われたからではなく、自らの意志で「やりたい」「変わりたい」と思ったときに訪れます。そのタイミングは、選手一人ひとりによって異なり、外から強制できるものではありません。
コーチとしては、つい「今このタイミングで変わってほしい」「ここで主体性を発揮してほしい」と願ってしまうものです。しかし、いくら周囲がアプローチを続けても、選手本人の中にあるスイッチが入らなければ、真の主体性は生まれません。
だからこそ、コーチにできるのは「信頼して、関わり続けること」です。
コーチングには様々なアプローチがあります。
- 教える:知識や技術、考え方を伝え、土台を作る。
- 質問する:問いかけることで、選手自身の気づきを促す。
- 委ねる:自分で選び、決めることで責任感を育てる。
- 認める:努力や変化を見逃さず、承認することで自信を深める。
- 挑戦させる:成長のきっかけとなる役割やミッションを与える。
- 寄り添う:ただ側にいて、心に寄り添い続けることで安心を与える。
- 仕掛ける:心が動くような出来事や経験を意図的に用意する。
- 見守る:あえて手を出さず、選手が自ら気づく時間を大切にする。
これらのアプローチを通じて、選手に関わり続けるために必要なのは、変化を「期待する」ことではなく、その選手に本来備わっている可能性や成長力を「信頼する」ことです。信頼は、結果を前提にしません。ただ「きっとこの選手は変われる」と信じ、関わり続けることこそが、主体性の芽生えを支える力になります。
しかしここで、忘れてはならない大切な視点があります。
それは、主体性を持つべきなのは、選手だけではないということです。
選手の主体性を引き出すことを目的に、「委ねる」「見守る」といったアプローチを過度に使いすぎると、時にコーチ自身が責任を放棄してしまうケースがあります。たとえば、選手がうまくいかない状況に対して「自分で考えなかったから」「行動しなかったから」と、すべてを選手のせいにしてしまう――これは本来のコーチングではありません。
主体的なコーチとは、「自分がどう関わるか」「どう成長のきっかけを作るか」という責任を自ら引き受け、試行錯誤しながら関わり続ける存在です。選手が迷っているとき、立ち止まっているときこそ、コーチ自身が自らの在り方を見直し、どうすれば選手の心が動くのかを考え続ける姿勢が求められます。
私自身、過去に「もう任せたから自分で考えろ」と突き放してしまったことがありました。しかし、選手はまだ考える準備が整っていなかったのです。その結果、関係が崩れかけた経験があります。そのとき痛感したのは、「委ねること」と「投げ出すこと」はまったく違う、ということでした。コーチングを勘違いしていた自分がいました。
選手に主体性を求めるなら、まずはコーチ自身が主体的であること。信じ、関わり、責任をもって寄り添い続けること。それが、選手の変化を引き出す最も大きな土台になるのだと、私は強く感じています。
主体性が芽生える瞬間は、選手一人ひとりのタイミングで訪れます。しかしその瞬間は、コーチが主体的に関わり、信頼し続けた先にこそ、訪れるものなのです。
SPORTS BAR FEEL FREEオーナー
宮﨑 善幸