教えることは、自らを深く理解することにつながる

「知る」→「わかる」→「できる」。この三段階は、誰もが経験する成長のプロセスです。そして、多くの人が「できる」ようになった段階で、成長が完了したと錯覚してしまいます。しかし実際には、その先にある「教える」という行為こそが、自分の理解をさらに深め、知識や技術を本当の意味で自分のものにする鍵だと、私は考えています。
先日、全国から選抜された女子高校生のエリート選手たちをコーチングする機会をいただきました。彼女たちは、非常に高いポテンシャルを持つ選手たちでした。しかし、高い能力を持っているだけで自動的に成長できるわけではありません。そこで私が彼女たちに求めたのは、「仲間同士でコーチングをし合うこと」でした。
例えば、コンタクトバッグをただ持つのではなく、「いまのヒットは良かった」「体の位置がずれていた」といった具体的なフィードバックを自分たちで出し合う。これにより、技術を再確認できるだけでなく、観察力や分析力、言語化する力も同時に育っていきます。
私はこれまで2度のオリンピックにコーチ/スタッフとして帯同させていただきました。その経験の中で痛感したのは、試合が始まってしまえば、外からできることは限られており、実際にプレー中の状況を読み、判断し、対応するのは選手自身であるという現実です。
つまり、選手が自ら「コーチング」する力、すなわち「教える」力を持っているかどうかが、試合の勝敗を大きく左右します。良いプレーを再現し、ミスをその場で修正できる選手は、どんな状況にも強くなれる。しかしこの力は、試合の場面でいきなり発揮できるものではありません。日々の練習や日常の中で、仲間に教え、伝えることを積み重ねることで育まれていくのです。
「教えること」は、相手のためであると同時に、自分自身を深く理解する行為でもあります。自分の考えを言葉にして伝えることで、曖昧だった理解や感覚が明確になります。人に伝えようとするとき、初めて自分の知識や経験がどの程度なのかが浮き彫りになるのです。
私はこの力を「セルフコーチ力」と呼んでいます。そしてこの力が選手全員に備われば、チームの成長スピードは飛躍的に上がります。誰か一人が理解しているだけでなく、全員が教え合い、学び合える文化が生まれれば、それぞれの選手が自立し、チームとしての一体感や柔軟性も高まっていきます。
また、「教える力」が高まると同時に、「教わる力」も養われていきます。素直に耳を傾ける姿勢、他者の意見を受け入れる柔軟性。お互いが謙虚に「教え、教わる力」を持っている選手たちと向き合うコーチは、最高に幸せです。
そして大切なのは、自分の主張が独りよがりになっていないかを常に問い、自分の言葉がチームにどう影響を与えるのかを意識することです。自分の思考をどう言語化するか、それがチームの成長にどう繋がるか。この問いこそが、選手としても人としても、大きな成長をもたらします。
「教えること」は、自分を知ること。コーチである私自身もまた、教えるという行為を通して、日々自分自身と向き合い、学び、成長しています。これからもその姿勢を大切にしながら、次世代と共に歩んでいきたいと思います。
SPORTS BAR FEEL FREE オーナー
宮﨑 善幸