環境適応能力の向上が成功の確率を上げる

生きていくうえで「環境に適応する力」は誰にとっても必要です。よく、環境が変わったことで自分の力を出し切れなかったり、結果が出なかったことを「環境のせい」にする人がいます。しかし、同じ環境に身を置いても成果を出せる人と出せない人がいるのも事実です。その差を生む大きな要因こそ、環境適応能力の有無だと私は考えています。

何かを目指し、成果や成功を求めていくとき、この環境適応能力を磨くことは「成功の確率」を着実に上げてくれます。特にスポーツの現場では、この力の重要性を何度も痛感してきました。

例えば海外遠征。日本で過ごす日常とは大きく異なる環境に突然飛び込むことになります。食事、生活習慣、言葉、文化、街の雰囲気や匂い、気候、交通ルールや治安、人々の価値観――すべてが違います。そんな状況でパフォーマンスを発揮するには、適応していくしかありません。逆に「日本だったらうまくいったのに」と嘆いても意味はなく、現実は変わらない。であれば、どう適応するかが問われるのです。

私自身、これまで100回近く海外遠征に帯同してきましたが、そこで見たのは「環境に順応できず、本来の力を出せない選手」が少なくないという現実でした。たとえば、ある選手は普段食べている日本食が恋しくなり、慣れない現地の食事にストレスを抱えて体調を崩してしまいました。別の選手は、ホテルの寝具や生活リズムが合わずに睡眠が浅くなり、試合で集中力を欠いてしまいました。こうしたことは決して珍しいことではありません。

しかし、これは決して「海外遠征だけの話」ではありません。国内でも日常生活でも、私たちは常に環境の変化にさらされています。職場が変わる、人事異動がある、新しい上司や同僚と働く、取引先が変わる、仕事のやり方が大きくアップデートされる――こうした変化はビジネスの世界でも日常的に起こります。そしてスポーツと同じく「新しい環境にどう適応できるか」が、成果に直結していくのです。

実際、ビジネスの現場でも「能力はあるのに環境の変化に順応できず、力を発揮できない人」は少なくありません。例えば急なシステム変更に対応できない、急速に変化する顧客ニーズについていけない、新しい組織文化に適応できない――いずれも「環境適応能力の不足」が根底にあるといえます。逆に、環境に素早く馴染み、自分なりの工夫で成果を出す人は、どんな組織や業界でも重宝されます。

では、この力はどう鍛えるのか。まず大切なのは「自分ではコントロールできない環境が存在する」ということを深く認識することです。例えば「飛行機が遅れて予定通りの調整ができなかった」「練習グラウンドが予想以上に硬く、普段の動きができなかった」といったことはスポーツの現場でよくあります。同じようにビジネスでも「納期が突然前倒しになった」「取引先の担当者が急に代わった」「想定していた市場が大きく変わった」など、不可避な出来事が日々起こります。そこに過剰にストレスを感じてしまうと、本当に必要な準備や工夫にエネルギーを注げなくなってしまいます。

だからこそ「変えられないものは受け入れ、変えられるものに集中する」という視点が重要です。つまり、気候や文化、相手の価値観を変えることはできなくても、自分の体調管理やメンタルの整え方、現地での工夫、あるいは仕事の進め方や自分のスキルアップには意識を向けられる。ここに大きな違いが出ます。

この力は日常生活の中で鍛えることができます。慣れない環境にあえて身を置く、新しいことに挑戦する、わざと不便な状況を経験してみる。そうした小さな訓練が積み重なることで「予期せぬ変化に直面したとき、自分はどう感じ、どう対応できるのか」を理解できるようになります。

結局のところ、環境適応能力を高めることはスポーツ選手だけでなく、社会で生きるすべての人に求められる力です。適応力がある人は、ストレスを抱える時間が少なく、その分パフォーマンスや成果に集中できます。人生においても、ビジネスにおいても「環境適応能力の向上」は、間違いなく成功の確率を上げるカギになるのです。

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