自分の強みと好きがスタイルを形成する

自分のスタイルを言語化することは、わかっていても難しいものです。特にコーチングの世界では、日々の経験や学びが積み重なっていく中で自然と「自分らしさ」がにじみ出てきますが、それを明確な言葉にしようとすると、多くの人が戸惑います。では、どのように自分のスタイルを言語化していけばよいのでしょうか。ここでは「コーチのスタイル」を事例に考えてみたいと思います。
まず、スタイルを表現する方法のひとつに「アプローチの視点から言語化する」というものがあります。たとえば「気合と根性で選手を導くタイプ」「緻密な分析で戦略を描く戦略家タイプ」といったものです。他にも、いくつか具体例を挙げてみましょう。
- 人間関係重視型:選手との信頼関係を最優先に築く。
- 科学的アプローチ型:データやテクノロジーを活用して競技力を高める。
- 情熱的モチベーター型:情熱で選手を鼓舞し、やる気を引き出す。
- 技術指導特化型:スキルやフォーム改善を徹底して追求する。
- チーム文化醸成型:勝敗以上にチームの価値観や文化を重視する。
一方で、スタイルを「フィロソフィー(哲学)」として言語化する人もいます。たとえば「挑戦を恐れず失敗から学ぶ」「自立した選手を育てる」「勝利よりも人間的成長を優先する」「走り勝つといったテーマを掲げる」「常に国際舞台を意識する」などです。こうした哲学的スタイルは、その人の価値観や人生観が強く反映されます。
このようにスタイルにはさまざまな切り口がありますが、若いコーチたちはそもそも自分のスタイルを言語化できていないことが多いのが現状です。そこで私は、まずは「自分の強み」と「自分の好き」を手がかりにして、スタイルを見つけていくことを勧めています。
では「強み」とは何か。強みとは、自分が自然にできること、周囲から「得意だね」と言われることです。例えば、人前でわかりやすく説明できる力、試合中に冷静に判断できる力、データを整理して仮説を立てる分析力、人の気持ちに寄り添う共感力、長期的な育成プランを描ける構想力などが挙げられます。これらは努力しなくても比較的スムーズに発揮できるため、周囲からも評価されやすい特徴です。
一方で「好き」は、強みとは少し性質が異なります。好きとは、努力しても苦にならず、時間を忘れて没頭できるものです。たとえば、選手と一緒に汗を流して練習することが好き、海外の試合を観戦して学ぶことが好き、ノートにびっしり練習プランを書くのが好き、選手の笑顔や成長を間近で見るのが好き、戦術やルールの細部まで研究するのが好き――こうした「好き」は情熱の源泉であり、続けることでやがて強みに変わっていきます。
若いコーチにとって重要なのは、この「強み」と「好き」を重ね合わせることです。強みだけに頼ると義務感に縛られてしまい、好きだけを追うと成果に結びつきにくい。両者が交差する部分にこそ、自分らしいスタイルの核心があるのです。
例えば、「人の気持ちに寄り添う強み」と「選手の成長を見るのが好き」が合わさると「育成型コーチ」というスタイルが浮かび上がりますし、「冷静な判断力」と「戦術研究が好き」が合わされば「戦略家コーチ」としてのスタイルが確立されます。つまり、強みと好きの組み合わせ次第で、その人にしかないスタイルが形づくられていくのです。
スタイルを言語化することは、自分を整理するだけでなく、選手や仲間に自分の哲学を伝えるうえでも大きな意味を持ちます。それは迷ったときの判断基準となり、信頼を積み重ねるための一貫性にもつながります。
自分の強みと好き――それらを丁寧に掘り下げて言葉にしていくことこそが、唯一無二のスタイルをつくる第一歩です。そして、そのスタイルはどんなものであっても「世界に一つだけの自分のスタイル」です。今一度、自分の強みと好きに向き合い、あなた自身のスタイルを言葉にしてみてください。
SPORTS BAR FEEL FREEオーナー
宮﨑 善幸