選手の個性を活かすコーチングスタイル

コーチングにはさまざまなスタイルがあります。厳しく引っ張るタイプ、寄り添って導くタイプ、観察を重視するタイプなど、その方法は千差万別です。私自身も一貫したスタイルを持っているつもりですが、それ以上に大切にしているのが「選手一人ひとりの個性にアプローチすること」です。

先日、ラグビーにおけるコンタクトスキルに関する個別セッションを行う機会がありました。対象となったのは2人の選手。体型も違えば、持っている強みも、これから改善していくべきポイントもまったく異なる2人でした。

今回のコーチングのゴールは「強いヒット力(インパクト)の向上」でした。いかに自分の持つ心・技・体を、コンタクトという競技の本質的な場面で最大限に発揮できるか。そのためのアプローチを模索していきました。

まずは身体的な準備として、モビリティ、スタビリティを実施し、事前の準備の大切さを伝えました。

セッションの冒頭、私はあえて何も指導せず、2人に自由にコンタクトをしてもらい、その様子を映像で記録しました。その映像を使ってまず行ったのはセルフチェックです。自分自身で「良い点」「改善点」を言語化してもらい、セルフコーチングを通じて気づきと成長を引き出すプロセスを重視しました。

次に、私からのフィードバックとして、それぞれの課題を「キーワード」として提示しました。「突き抜ける」「最大スピードで突き抜ける」「ぶち壊す」といったイメージワードです。

スピードが持ち味の選手には、「突き抜ける」「最大スピードで突き抜ける」というキーワードが非常に効果的でした。彼女の中でイメージが明確になり、実際のヒットの質にも変化が現れました。一方で、パワーが持ち味のもう一人の選手には、「ぶち壊す」という言葉がフィットしました。その瞬間、彼の動きにも力強さが増し、ヒットの手応えが明らかに変わったのです。

同じ「強いヒット力の向上」というゴールを掲げていても、アプローチの方法は個人によって変わってくる。そのことを改めて強く実感したセッションとなりました。

このセッションを通じて選手たちにも伝えたことがあります。それは、「どんなコーチに出会っても、その言葉を自分自身でどう受け止め、解釈し、行動に変えていくかが上達の鍵である」ということです。コーチの発する言葉はヒントであり、その活かし方は選手次第。受け身ではなく、主体的に学ぶ姿勢が成長を大きく左右するのです。

コーチとしての役割は、選手が自分の可能性を信じて行動に移す「きっかけ」を創ることだと考えています。だからこそ、選手の個性を尊重し、その選手に最も響く言葉を探し続けることが、私自身のコーチングスタイルの軸であり続けたいと思っています。

SPORTS BAR FEEL FREEオーナー

宮﨑 善幸

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