1-1-5 私自身がメンタリングに支えられてきた経験

「メンタリング」と聞くと、専門的な指導や体系化されたアドバイスを思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、私自身は「メンタリングを受けている」という明確な自覚があったわけではありません。人生の節目ごとに恩師や家族、そして多くの出会いに恵まれ、その言葉に耳を傾けながら、時には迷い、考え、選択を重ねてきました。その積み重ねの先に、今の自分があります。振り返ると、メンタリングは常に私の人生のそばにあり、進むべき方向を静かに照らしてくれていたのだと実感しています。
高校卒業後の進路選択は、人生最初の大きな決断でした。就職するか、進学するか。恩師に相談した際、「進学の機会があるなら迷わず進学したほうがいい」と背中を押していただきました。当時は早く社会に出て自立したいという気持ちもありましたが、その言葉を信じて大学進学を選びました。母に相談したときには、「大学は遊びに行くところ。友達をいっぱいつくってきなさい」と言われました。一見すると軽やかな言葉ですが、新しい環境へ踏み出す不安を和らげ、私の背中を押してくれた大切な一言でした。この選択が、その後の人生におけるさらなる学びへとつながっていきます。
大学卒業後はトレーナー関連企業への就職を考えていましたが、大学の恩師から「一年間浪人するつもりで大学院に進学してみてはどうか」と提案されました。もう二年間学ぶことで得られる知識と経験の価値を見つめ直し、進学を決意しました。この決断は、私のキャリア形成において非常に大きな意味を持つことになります。
大学院修了時には海外留学も視野に入れていました。ニュージーランドに渡り、語学を学びながら新たな経験を積みたいと考えていたのです。しかし恩師からいただいた言葉は、「英語を学ぶ前に、日本語できちんと書く力をつけなさい」でした。その助言を受け、研究成果を学会で発表し、論文として投稿する機会を得ました。最初は慣れない作業に苦労しましたが、文章をまとめる力や論理的に考える力が次第に身につき、研究発表の意義を実感するようになりました。結果として、大学院で積み重ねた研究業績が評価され、現在の大学教員としての道へとつながっています。もし当時、恩師の助言を受け入れず海外へ飛び出していたら、今の自分はなかったかもしれません。
こうして振り返ると、私の重要な選択の場面には常に誰かの助言がありました。ただし、それは単に指示に従ったということではありません。最終的に決断してきたのは、他でもない自分自身です。メンタリングとは答えを与えるものではなく、対話を通じて自分の考えを整理し、納得のいく選択へと導いてくれる関わりなのだと思います。
私はゼミや授業の中で、「20代の挑戦の数が今後の人生を決める」と学生によく伝えています。若い世代の中には、「恥をかきたくない」「リスクを負いたくない」「失敗したくない」といった思考にとらわれている人も少なくありません。しかし、恥もリスクも失敗も、実は自分が思っているほど大きなものではないのです。
大学院時代、「英語を話せるようになりたい」と恩師に相談したとき、返ってきたのは「どれだけ恥をかき続けられるかだよ」という言葉でした。単語や文法の正確さ以上に、通じなくても話してみる勇気が大切なのです。相手の英語が速ければ “Please speak slowly.” と伝えればいい。その一言がコミュニケーションを切り開き、世界を広げてくれます。
年齢を重ねるほど、人は挑戦に慎重になります。立場ができ、守るべきものが増えるからです。しかし同時に、「挑戦しなくなる」という見えにくいリスクも抱えることになります。もちろん挑戦は何歳からでもできますが、20代のうちに「挑戦することが当たり前」という感覚を身につけておくことは、その後の人生において計り知れない強みとなります。失敗は経験となり、そこから学び続ける力が人としての魅力を深めていくのです。
思えば、私のメンタリングの経験は一方向ではありません。恩師に導かれたメンティとしての経験もあれば、指導者として誰かを支えるメンターの立場もあります。そして学生から学ばされることも数多くあります。人は関わりの中で互いに影響を与え合い、共に成長していく存在です。そう考えると、これまでのあらゆる出会いがメンタリングだったのかもしれません。
これからのブログは「人が人をはぐくむ」という視点から、メンタリングの本質を探究していきます。それは決して特別な人だけが行うものではなく、日常の関わりの中に自然と存在するものです。誰かの一言が人生を変え、誰かとの対話が新たな可能性を開く――メンタリングとは、そのような力を持っています。
現在、私は大学教員として、またスポーツの現場で指導に携わる者として、多くの人と関わる機会をいただいています。今度は私自身が、誰かの挑戦に寄り添い、より良い選択を後押しできる存在でありたい。これまで受け取ってきた助言の価値を胸に、人の可能性を信じ続けたいと思います。
SPORTS BAR FEEL FREEオーナー
宮﨑 善幸
