2-3-6 厳しさとハラスメントの境界線

スポーツの現場において「厳しさ」は必要不可欠な要素です。なぜなら、勝利を目指す過程では、日常では経験しないようなプレッシャーや困難に直面するからです。その状況を乗り越えるためには、時に高い基準を求め、妥協を許さない指導が必要になります。しかし一方で、近年大きな問題となっているのがコーチによるハラスメントです。
ハラスメントとは、立場や力関係を背景に、相手に精神的・身体的苦痛や不利益を与える言動のことを指します。スポーツの現場では、暴言や人格否定、過度な叱責、無視や威圧的な態度などがこれに該当します。問題は、指導者自身がそれを「指導」や「厳しさ」と捉えてしまうケースがあることです。
ここで重要になるのが、「厳しさ」と「ハラスメント」の境界線です。よく「信頼関係があればハラスメントにはならない」と言われます。しかし、この考え方には大きな落とし穴があります。なぜなら、コーチが「信頼されている」と思っていても、選手が本当にそう感じているかは分からないからです。この認識のズレこそが、ハラスメントの始まりになる可能性があります。
特に注意すべきは、「自分の選手は自分を信頼しているはずだ」という思い込みです。この思い込みがあると、指導が一方的になりやすく、相手の感情や受け止め方への配慮が欠けてしまいます。その結果、知らず知らずのうちに相手を傷つけてしまうのです。
では、選手とコーチの関係において何が最も大切なのでしょうか。それは、お互いを一人の人間として尊重し、尊敬し合うことです。コーチが上で選手が下という固定的な上下関係ではなく、「役割が違うチームメイト」として関わることが重要です。近年「アスリートセンタード」という考え方が広がっていますが、これは単に選手の意見を優先するという意味ではなく、選手を中心にしながらも、互いに責任を持ち、対等な人間関係を築くことを意味します。
その中で、コーチが自分の考えを正直に伝えることも非常に重要です。「ハラスメントになるのではないか」と恐れるあまり、必要な指摘や意見を言えなくなってしまえば、コーチングは成立しません。大切なのは、伝え方と意図です。相手の成長を願い、行動やプレーに対して具体的に指摘することは厳しさであり、人格を否定することはハラスメントです。この違いを明確に認識する必要があります。
また、ミスへの向き合い方も重要なポイントです。挑戦した結果のミスは、成長のために必要なプロセスです。しかし、ミスを恐れて挑戦しないことの方が、長期的には大きな問題になります。コーチは、ミスそのものを責めるのではなく、その背景や意図に目を向けることが求められます。
厳しさとは、選手の可能性を信じ、高い基準に導くことです。一方でハラスメントは、相手の尊厳を傷つけ、可能性を奪う行為です。この二つは似ているようで本質的に異なります。だからこそ、私たちは常に「これは相手の成長につながっているのか」「相手を一人の人間として尊重しているか」を問い続けなければなりません。
厳しさの本質は支配ではなく支援です。その視点を持ち続けることこそが、これからの時代のコーチングに求められる姿であると考えます。
SPORTS BAR FEEL FREEオーナー
宮﨑 善幸
