5-10-1 聴くことが「コミュニケーション」である

人と人が関わる限り、良い関係性を築くことはとても重要です。それは、スポーツにおけるコーチと選手の関係だけではありません。上司と部下、教師と生徒、親と子、友人同士など、あらゆる場面に共通することだと思います。そして、その関係性の土台になるのが「信頼」です。
では、その信頼はどのように生まれるのでしょうか。
多くの人は、コミュニケーションとは「話す力」や「伝える力」だと考えます。もちろん、自分の考えを相手に伝えることは大切です。しかし、私自身は、コミュニケーションの本質は「聴くこと」にあると感じています。相手の話を真剣に聴くこと。それこそが、信頼関係を築く第一歩なのです。
特に、メンタリングの視点に立った時、この「聴く」という姿勢は非常に重要になります。メンターとは、単に答えを与える存在ではありません。相手の可能性を引き出し、相手自身が考え、成長していけるように支える存在です。そのためには、まず相手を理解しようとする姿勢が欠かせません。
つまり、良いメンターほど「話す人」ではなく、「聴ける人」なのだと思います。
私自身、その大切さを日々感じさせてくれる場面があります。それは、幼い子どもたちとの関わりです。子どもたちは本当に純粋で、毎回いろいろなことを話してくれます。「今日はこんなことがあった」「こんな遊びをした」「これが楽しかった」と、一生懸命に自分の気持ちを伝えてくれます。
その時に、こちらが適当に返事をしたり、形だけ耳を傾けているような態度を取ると、子どもたちはすぐに気づきます。子どもはごまかしが効きません。本当に聴いているのか、それとも流しているのかを敏感に感じ取ります。
逆に、しっかりと目を見て、うなずきながら話を聴くと、子どもたちは安心した表情になります。そして、不思議なことに、こちらの話にも耳を傾けてくれるようになります。
これは、人間関係の本質なのだと思います。
人は、「自分を理解しようとしてくれている」と感じた時に、初めて相手を信頼します。そして、その信頼があるからこそ、アドバイスやフィードバックも心に届くのです。
スポーツの現場でも同じです。選手が「このコーチは自分のことを理解しようとしてくれている」と感じた時、初めて本音を話すようになります。逆に、一方的に指示や評価ばかりを与えられると、選手は次第に自分の考えを閉ざしてしまいます。
職場でも同じです。部下が「この上司は自分の意見をちゃんと聴いてくれる」と感じた時、人は主体的に行動し始めます。安心感があるからこそ、自分の考えを出せるようになるのです。
メンタリングにおいて大切なのは、「正しい答えを教えること」ではありません。相手の話を受け止め、相手自身が考える時間と空間をつくることです。そのためには、まず聴くことが必要です。
しかし、実際には「聴く」という行為は簡単ではありません。多くの場合、人は相手の話を聞きながら、「次に何を言おうか」と考えてしまいます。また、自分の価値観で評価したり、途中で結論を急いでしまうこともあります。
だからこそ、本当に相手の話を最後まで聴くという行為には、大きな価値があります。
相手の言葉を遮らない。すぐに否定しない。評価を急がない。そして、「あなたの話を理解したい」という姿勢で向き合う。その積み重ねが、信頼関係を育てていきます。
メンタリングとは、特別な技術ではなく、「相手を大切に思う姿勢」の表れなのかもしれません。そして、その最も基本となる行動が「聴くこと」なのだと思います。
現代は、多くの情報があふれ、効率やスピードが重視される時代です。しかし、そのような時代だからこそ、人は「自分の話をちゃんと聴いてもらえること」に安心感を覚えます。誰かに理解されることは、人にとって大きなエネルギーになるのです。
良い関係性を築くために必要なのは、特別なコミュニケーション技術ではありません。まずは、目の前の相手の話を真剣に聴くこと。そのシンプルな姿勢こそが、人を育て、信頼を育て、組織やチームを成長させていくのだと思います。
私自身も、これから先、どのような立場になったとしても、「聴くこと」を大切にできる人でありたいと思います。そして、相手の可能性を引き出せるような、温かいメンタリングを実践していきたいと思います。
SPORTS BAR FEEL FREEオーナー
宮﨑 善幸
