5-11-3 答えを奪わない関わり

「スポーツで人の性格を変えることができる」

この問いに対して、多くの人は「できる」と答えるかもしれません。スポーツには、積極性や協調性、忍耐力などを育てる力があると考えられているからです。一方で、「数学で人の性格を変えることができる」と聞かれると、できると答える人は少なくなるでしょう。

しかし、スポーツでも数学でも、人の性格そのものを変えることはできないのではないでしょうか。

人には、それぞれ生まれ持った気質や考え方があります。内向的な人を無理に社交的にしたり、慎重な人を積極的な人に変えたりすることが、教育やコーチングの目的ではありません。大切なのは、本人が自分の性格を理解し、状況に応じて自分の力を発揮できるようになることです。

たとえば、自己表現が苦手な選手でも、試合では仲間に声をかけ、ボールを要求し、自分の考えを伝えなければならない場面があります。スポーツは、その人の性格を変えるのではなく、「今、自分はどのように行動すればよいのか」を考え、選択する機会を与えてくれます。

それは数学でも同じです。

すぐに答えが見つからない問題に向き合い、何度も考え直し、自分なりの方法を探す。間違いを受け止めながら、別の可能性を試してみる。その過程では、粘り強さや柔軟性、自分の考えを信じる力が育まれます。

しかし、教える側が正解を急いで伝えてしまえば、その大切な機会は失われます。

答えを教えることは簡単です。困っている人を見ると、助けたいという思いから、つい正しい方法を示したくなります。しかし、先回りして答えを与えることは、本人が悩み、考え、決断する時間を奪うことにもなります。

「答えを奪わない」とは、何も教えずに放っておくことではありません。相手の存在を認め、その人の中に答えを見つける力があると信じ、必要なときに問いを投げかけながら待つことです。

間違えることも、迷うことも、立ち止まることも、決して無駄ではありません。自分で考えた末にたどり着いた答えには、与えられた正解とは異なる価値があります。その経験が、次に困難へ直面したとき、自分で判断して一歩を踏み出す力になるからです。

そして、答えを奪わない関わりに最も必要なのは、「信じ続けること」です。

人を信じることは、それほど難しくありません。順調なときや、期待した結果が出ているときには、自然に信じることができます。本当に難しいのは、相手が失敗したとき、成長が見えないとき、期待と現実に差があるときにも、その可能性を信じ続けることです。

教える側が不安になると、待つことができなくなります。細かく指示を出し、正解へ導こうとしてしまいます。しかし、その行動の背景には、「この人にはまだ自分で答えを見つけられない」という無意識の決めつけがあるのかもしれません。

信頼とは、相手が思いどおりに行動することを期待することではありません。うまくいかない時間も含めて、その人が自分の力で成長していく過程を信じることです。そのためには、目の前の結果だけではなく、その先にあるゴールを共有する必要があります。

どのような人になりたいのか。何を大切にして生きたいのか。どのようなチームをつくりたいのか。

共に目指す未来が見えていれば、失敗や停滞も成長の一部として受け止めることができます。教える側も、すぐに答えを与えるのではなく、相手が考える時間を尊重できるようになります。

「そのままでいい」という言葉は、成長しなくてよいという意味ではありません。今の自分を否定することなく、自分の性格や特徴を理解し、その自分で挑戦していけばよいという承認です。

人を変えようとするのではなく、その人が自分を理解し、自分を信じ、自分の答えを選べるように支える。迷ったときにも可能性を信じ、必要な距離で寄り添い続ける。

答えを奪わない関わりとは、教える技術ではありません。

相手の中にある答えと成長する力を、最後まで信じ続ける姿勢なのです。

SPORTS BAR FEEL FREEオーナー

宮﨑 善幸

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