水のような生き方 〜理想のコーチ像とは〜

私が思い描く理想のコーチとは、「水」のような存在です。
水は、状況に応じて自在にその形を変えることができます。丸い器に注がれれば丸くなり、四角い器に入れられれば四角になります。温度によっても変化し、熱されれば蒸気となり、冷やされれば氷になります。水は、目には見えないほど透明である一方、さまざまな光を受けて色を帯びることもあります。
また、水は汚れたものを洗い流し、清める力も持っています。川のせせらぎや波の音に心癒された経験がある方も多いのではないでしょうか。水には、ただの物質を超えた、心に作用する不思議な力があるのです。喉の渇きを潤し、生命を維持するという物理的な面だけでなく、私たちの心や感情にまでも寄り添ってくれる存在。それが水なのです。
しかし、水はただ優しいだけの存在ではありません。大量の水は大地を削り、固い岩をも打ち砕く力を持ちます。また、長い時間をかけて岩の角を削り、丸く滑らかな形に変えていくような、静かながらも確かな変化をもたらす力も秘めています。
水は高いところから低いところへと流れます。つまり、下に下りることをいとわない謙虚さを持っています。この「下へ下へと流れる姿勢」こそ、コーチとしての在り方に通じるものがあると私は感じています。
私たちは日常生活の中で、水の存在をあまりにも当たり前のものとして捉えています。蛇口をひねれば出てくる水。雨として空から降り注ぐ水。そうした日常にあっては、ついその存在を忘れてしまいがちです。しかし、災害や非常時において、真っ先に必要とされるのもまた水です。普段は目立たないが、いざというときに最も必要とされる。そんな存在こそが、コーチとしての理想像ではないかと感じています。
コーチングには、唯一絶対の正解はありません。なぜなら、選手一人ひとりに個性があり、同じ指導が全員に通用するわけではないからです。だからこそ、理想のコーチは、選手の性格や状況に応じて、自分のスタイルを柔軟に変化させる必要があります。まさに、水が器に合わせて形を変えるように。
また、理想のコーチは、空気感や温度感を読み取る力にも長けているべきです。チームや選手の状態に応じて、場にふさわしい雰囲気をつくり出す。熱量が足りないときには火を灯すような言葉を、熱くなりすぎたときには一歩引いて冷静にさせる声かけを。まるでその場に最適な「温度」を保つかのように、調整できるコーチこそが理想だと思うのです。
そして何よりも、コーチは謙虚でなければなりません。常に学び続け、自らの指導を振り返り、選手から学ぶ姿勢を持ち続けること。決して自分が主役だと思い込まず、選手こそがピッチの中心であることを理解している。試合中、コーチの役割は裏方であり、選手が最も輝ける舞台を用意することなのです。
水はすべての生命の源です。人間の身体も、その約60%が水でできていると言われています。つまり、私たちの本質そのものが水であるとも言えるのかもしれません。水のように、柔軟で、強くて、優しくて、謙虚で、そして必要とされる存在——。
そんな生き方を、私はこれからも目指していきたいと考えています。
皆さんの理想像を何かに例えると何でしょうか?
SPORTS BAR FEEL FREEオーナー
宮﨑 善幸