心をつかむプレゼンテーションの極意

私は現在、JOCナショナルコーチアカデミーにて、オリンピック選手を指導するナショナルコーチの皆様に「プレゼンテーション論」を担当させていただいております。ありがたいことに、多くのトップコーチの方々と対話しながら、私自身もプレゼンテーションについて日々学びを深めています。
「プレゼンテーションが得意ですか?」と聞かれたら、今では自信を持って「はい」と答えることができます。しかし、もともとは人前で話すのが大の苦手で、小学生や中学生のころは人前に立つだけで顔が真っ赤になってしまうような子どもでした。
そんな私がプレゼンテーションに自信を持てるようになったのは、ただひとつ、場数を踏んだからです。高校時代・大学時代と、ラグビー部のキャプテンを務めさせていただいた経験が大きな転機でした。試合前の円陣、チームミーティング、保護者会での説明など、人前で話す機会が自然と増え、いつの間にか「伝える」ことが自分の武器になっていました。
ここで、私が大切にしている「心をつかむプレゼンテーションの極意」を3つご紹介します。
① 聴き手には、自分の“あり方”しか伝わらない
どれだけ完璧なスライドや原稿を準備しても、結局伝わるのは「話し手のあり方」です。つまり、何を話すか以上に、どんな気持ちでその場に立っているかが問われます。特にスポーツ現場では、言葉の説得力は日々の行動と一体です。たとえば、指導者がどれだけ「全力でやれ」と言っても、自分自身が全力を尽くしていなければ、選手の心には響きません。プレゼンも同じで、自分の心にウソがなければ、聴き手の心に真っすぐ届くのです。
だからこそ、プレゼンの準備と同時に「自分の心の状態」を整えることが大切です。感謝、覚悟、責任。そうした内面が、言葉を超えて伝わっていくのだと私は信じています。
② シンプル+ダイレクト
わかりやすいプレゼンとは、シンプルでダイレクトなものです。内容が複雑になりすぎると、伝えたい本質がぼやけてしまいます。これは、ラグビーの戦術説明でも同じです。選手に伝えるとき、「何を守るか」「どこを攻めるか」が一目でわかるように整理することで、実行力が格段に上がります。
プレゼンも同様に、「この話で一番伝えたいことは何か?」を徹底的に絞り込むことが大切です。その上で、専門用語を噛み砕き、誰にでもわかる言葉にする。伝わるとは、相手の立場に立って話すということです。捨てる勇気を持つこと、本質の言葉にたどり着くまで考え尽くすことです。
③ 等身大の自分・等身大の言葉で話す
人は、話し手の「自然体」に心を開きます。背伸びせず、かといって自分を過小評価せず、自分の言葉で語ること。それが信頼につながります。
たとえば、プレゼンで「うまく見せよう」とか「かっこよく話そう」と意識しすぎると、逆に聴き手との距離が生まれてしまうことがあります。聴き手は意外なほど、話し手の“つくった言葉”や“無理をしている感じ”を敏感に察知します。
一方で、失敗談や素直な気持ちを等身大の言葉で語ったとき、聴き手は自然と心を開き、耳を傾けてくれるものです。たとえばスポーツの現場では、選手に伝えるときに「こうあるべき」だけでなく、「自分もこんなことで悩んだ」といった本音や実体験を共有することで、信頼関係が深まり、チームの空気が大きく変わることがあります。
プレゼンでも同じです。自分の実体験や感情をこめて話すと、聴き手の心は自然と動きます。だからこそ、プレゼンでは「自分らしさ」を隠さず、そのまま出すことが大切だと思います。
プレゼンテーションとは、単なる情報の伝達ではなく、「心を届ける技術」です。スポーツの世界も、人の心が動いたときに本当の力が発揮されます。だからこそ、プレゼンにも“魂”を込めていきたいと、私は思っています。自分の言葉で、自分の想いを、あなたらしく伝えてください。それが、心をつかむ第一歩です。
SPORTS BAR FEEL FREEオーナー
宮﨑 善幸