選手とのゴール設定。共に成し遂げるためのプロセス

先日、中学生の女子ラグビー選手2名を対象にコーチングをする機会がありました。2名という少人数のセッションでしたが、こうした時間こそ、選手一人ひとりと丁寧に向き合える貴重な時間だと私は感じています。セッションの冒頭、私は選手たちにこう問いかけました。「今日は何を達成するためにこのグラウンドに来ましたか?」と。すると、少し戸惑ったような表情を浮かべながらも、「前回やってきたことをよりうまくできるようにする」と答えてくれました。
この言葉には彼女たちなりの意思が感じられ、とても嬉しく思いました。しかし同時に、コーチとしてそのゴールをもう一段階、具体化してあげる必要性も感じました。私は、どんな練習であっても「目的意識を持つこと」がとても重要だと考えています。ただ何となくグラウンドに立つ選手と、「これを達成したい」と思って練習に臨む選手では、その1時間の過ごし方の質がまるで違うからです。
ただし、ゴール設定はとても奥が深く、熟練したコーチやトップ選手でも難しさを感じるテーマです。それを中学生がいきなり完璧にできるとは思っていません。だからこそ、最初は曖昧な目標であっても、コーチと選手が対話しながら少しずつ具体化していくプロセスが大切です。
「前回やったことをうまくなりたい」という言葉を具体化するために、私は「それって、何のプレーのこと?」とか、「どの場面でうまくなりたい?」と、少しずつ質問を重ねていきました。すると、選手の一人は「コンタクトの時に足が止まってしまうから、最後まで足を動かしたい」と話しはじめました。もう一人の選手は、「タックルされた後の立ち上がりをもっと速くしたい」と。
このように、言葉を引き出していくことで、自然と目標は「曖昧な意志」から「具体的な行動」に変わっていきます。そして、この過程をさらに整理するために、私はときどき“SMART”ゴールという考え方を紹介します。
SMARTとは、Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Relevant(関連性がある)、Time-bound(期限がある)という5つの要素を意識して目標を立てる方法です。
たとえば「コンタクトの時に足を止めずに動かす」ことをSMARTにすると、「2回目の接触でも足を3歩以上前に出し続けることを意識する」といった具合になります。このように言語化してあげると、選手自身も「今日はそれができたかどうか」を実感できるようになります。
コーチの役割は、選手のゴールを“与える”のではなく、“一緒に見つけて、共に成し遂げる”こと。特に中高生年代の選手にとっては、ゴール設定の質そのものよりも、「自分で考えて、工夫して、少しずつ前に進んでいる」と実感することが、成長の土台になります。完璧なゴール設定なんていりません。大切なのは、選手の中にある「うまくなりたい」という小さな火を、対話を通して「灯し続けること」です。
改めてゴール設定の大切の機会をいただけた2名の素直でうまくなりたいと思う選手たちに感謝いたします。
本当にありがとうございました。
SPORTS BAR FEEL FREEオーナー
宮﨑 善幸