鈍感力で育む自己肯定感

「鈍感力(どんかんりょく)」という言葉をご存じでしょうか。
鈍感力とは、周囲の声や環境の変化に過剰に反応せず、落ち着いて自分らしくいられる力のことを指します。一見するとネガティブな響きに感じるかもしれませんが、実は現代社会、特にリーダーにとっては必要不可欠な力だと私は感じています。
この言葉を広めたのは、元総理大臣・小泉純一郎氏を長年支えたことで知られる作家・渡辺淳一さんの著書『鈍感力』(集英社・2007年刊)です。多くの人の共感を呼び、当時ベストセラーにもなりました。
私たちは日々、膨大な情報に囲まれて生活しています。職場や家庭だけでなく、SNSを通じて世界中の言葉や出来事が一瞬で届く時代です。その中には、心温まる応援の声や学びになる情報もありますが、一方で、根拠のない批判や誤解、不安をあおるような内容も少なくありません。
とくにSNSでは、他人の成功や幸せそうな瞬間ばかりが切り取られて流れてきます。その結果、自分と比較して落ち込んだり、自信を失ってしまうこともあるでしょう。また、否定的なコメントや無理解な反応に傷つく人も少なくありません。アスリートに対する誹謗中傷が世界的な問題になっていることからも、それは明らかです。
だからこそ、いま「鈍感力」が必要なのです。
他人の評価や反応に一喜一憂せず、自分の信じる道をしっかりと見つめ、自分自身にフォーカスすること。この「ブレない心」が、現代を生きる私たちに求められているのだと思います。もちろん、他人の声を完全に無視するということではありません。大切なのは、何を受け入れて、何を受け流すか――つまり、“選択力”を持つことです。
この鈍感力を育てていくことで、自然と自己肯定感も高まっていきます。自分の価値観で自分を認められるようになると、他人の物差しで自分を測らなくなります。弱さや失敗も、自分の一部として受け入れられるようになると、他人の声に左右されることが少なくなっていきます。
リーダーという立場にいる人ほど、日々多くの意見にさらされます。すべてに真摯に向き合っていたら、心がすり減ってしまいます。だからこそ、ときには“あえて気にしない”というスタンスを持つことが、心の健康を守るために大切なのです。
最近は、自己肯定感に悩む人が増えています。自分を認められず、他人と比較して苦しくなる日々…。そんなときは、まずSNSとの距離を見直してみてください。そして、自分がどんな情報に触れ、どんな反応に心を動かされているかを意識してみましょう。
すべてを完璧にこなす必要はありません。他人の評価に左右されず、自分の声に耳を傾ける。そんな生き方が、きっと穏やかでブレない自己肯定感を育ててくれるはずです。
SPORTS BAR FEEL FREE オーナー
宮﨑 善幸