コーチが選手の可能性を信じ続けるということ

先日、かつて私が指導していたチームでプレーし、すでに現役を引退した選手から一本の電話をいただきました。
その内容は、「私の可能性を信じてくれていたことに感謝したいと思って、お電話しました」というものでした。
知り合いの方に「若いときに叱ってくれたり、応援してくれた人には感謝の気持ちを伝えた方がいい」と言われ、連絡をくれたそうです。嬉しさと懐かしさが一気に込み上げました。

少し、彼女について紹介したいと思います。
彼女は「日本代表になる」という目標を掲げてラグビーを始め、日本代表候補にまで上り詰めた選手でした。しかし、器用さという点では決して恵まれていたわけではありません。パスや機転の効いたプレーは得意ではなく、プレーの幅も限られていました。

それでも、彼女には誰にも負けない強みがありました。恵まれた体格、抜群のスピード、豊かな感受性、大きな声、そして印象的な表情。指導者に遠慮なく自分をさらけ出せる正直さと、自分が日本代表になると信じて疑わない揺るぎない心。
私は、そうした強みを最大限に生かすため、一時期「試合中はパス禁止。ボールを持ったら前に走り、勝負する」というシンプルな役割を彼女に全うしてもらいました。彼女はそれを愚直にやり続けました。

電話の中で彼女はこう問いかけました。
「なんで、私を信じてくれたんですか?」
私は迷わず、二つの理由を伝えました。
一つは、「あなたが日本代表になるというゴールを本気で信じていたから」。
もう一つは、「あなたには他の誰にも負けない強みがあるから」。

現在、彼女はスポーツとは異なる分野で働きながら、自分の人生を楽しんでいます。もちろん、うまくいかないこともあるはずです。それでも、彼女なら必ず前を向いて進み続けられると信じています。

今回の電話で改めて強く感じたことがあります。
コーチという仕事の根幹は、技術や戦術を教えること以上に、「選手の可能性を信じ続けること」だということです。信じ続けることで、選手は自分の中にある力に気づき、時に限界を超えることができます。

あの日の電話は、私にとっても宝物のような時間でした。
彼女の言葉に、心から「ありがとう」と伝えたいと思います。

SPORTS BAR FEEL FREEオーナー

宮﨑 善幸

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