本番を想定したケーススタディがアンラーンとなる

私が担当する大学の講義「コーチング演習」では、スポーツチームの監督が日々直面する“決断”をテーマにしたケーススタディを行いました。監督やヘッドコーチという立場は、常に「決める」ことが求められます。リーダーの大きな仕事とは、まさにこの「決断」にあります。どんなに優れた戦術や理論を持っていても、最終的に現場を動かすのは、決断の重みとその伝え方なのです。

今回の授業では、受講生に次のような状況を提示しました。

【状況】
主将でありエースの4年生がケガ明けで調子が上がらず、控えの2年生が著しく成長している。チームの勝利を優先するか、それとも主将としての存在を重視するか。

【ディスカッション質問】

  1. あなたが監督なら、どのような基準でスタメンを決めますか?
  2. エース本人にはどのように伝えますか?
  3. チーム全体にどう説明し、士気を保ちますか?

実際のチーム現場では、こうした決断を迫られる場面が多々あります。選手一人を外すという行為は、単なる戦術的判断ではなく、チーム全体の信頼関係を左右する大きな要素となります。だからこそ、この授業では「どう決めるか」だけでなく、「どんな価値観をもとに判断するか」「どのように伝えるか」というプロセスまで深く考えることを目的としました。

ディスカッションでは、一人の意見ではなく、グループの中で様々な視点が飛び交いました。勝利を最優先する考え方、主将としての精神的支柱を重んじる考え方、チームの長期的成長を見据える意見など、多様な価値観がぶつかり合いました。自分とは違う立場や考えを知ることは、「アンラーン(学びほぐし)」の第一歩です。これまでの常識や固定観念を一度手放し、新たな発想で物事を捉え直す――この経験こそが、学生たちにとって最も大きな学びとなりました。

授業の終盤では、私が学生の皆さんに伝えたこととして「答えは一つではない」ということです。リーダーシップとは、正解を求めるものではなく、状況に応じて最善を尽くす「決断の連続」であることをお伝えしました。机上の理論ではなく、実際の現場を想定して考えることで、学生たちの表情は一段と真剣になり、言葉にはリアリティがありました。

本番を想定したケーススタディは、単なる知識の習得ではなく、未来のリーダーとして必要な思考力・判断力・伝達力を鍛える最高のトレーニングです。こうした学びの場が、社会に出たときに「決める勇気」と「伝える力」として生きてくることを願っています。

SPORTS BAR FEEL FREEオーナー

宮﨑 善幸

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