2-1-2 見本・信頼・支援という考え方

人が人をはぐくむ関係性において、メンターに求められる役割とは何でしょうか。
これまで多くの現場や人生の節目に立ち会ってきた経験を振り返ると、その本質は「見本」「信頼」「支援」という三つの姿勢に集約されると感じています。これらは技術やノウハウではなく、関わり方の根幹を成す態度であり、どれか一つが欠けても、メンタリングは本来の力を発揮しません。
見本 ― 行動が語る生き様
メンタリングにおいて、最も重要なのは「見本となること」です。
言葉による助言や理論的な説明は確かに必要ですが、それ以上に強い影響力を持つのは、日々の行動そのもの、すなわち「生き様」です。どれほど正しいことを語っても、その人自身の行動が伴っていなければ、言葉は相手の内側には届きません。
人は、自分が思っている以上に他者の姿勢を見ています。困難な状況に直面したときにどのように振る舞うのか、責任から逃げずに向き合っているのか、学び続ける姿勢を保っているのか。そうした一つひとつの姿が、メンターとしての信頼の土台をつくっていきます。
見本になるとは、完璧であることを意味しません。むしろ、迷いや葛藤を抱えながらも前に進もうとする姿を示すことに価値があります。相手が変わるのを待つのではなく、まず自分自身が変わろうとする姿勢こそが、相手に影響を与えるのです。
信頼 ― 期待ではなく、信じ続ける姿勢
次に重要なのが「信頼」です。
ここで言う信頼とは、成果を条件とした期待ではありません。相手の可能性を疑わず、結果が出るまで待つ覚悟を持つことです。
期待は、ときに無意識のプレッシャーになります。「こうなるはずだ」「これくらいはできるだろう」という先回りした思いは、相手の成長の自由を奪ってしまうことがあります。一方で、信頼は相手の内側に余白を生みます。その余白があるからこそ、人は自分のペースで試行錯誤し、失敗から学ぶことができます。
人は、信頼されていると実感したとき、自分でも驚くほどの力を発揮します。小さな前進を見逃さず、結果だけでなく過程にも目を向ける姿勢が、信頼を形あるものにしていきます。信頼は言葉で伝えるものではなく、日々の関わりの中で静かに示されるものです。
支援 ― 奪わず、引き出す関わり
三つ目が「支援」です。
支援とは、相手の代わりに答えを出すことではありません。相手が自ら考え、自ら選び、自ら行動する力を引き出すための関わり方です。
答えを与えることは、一時的な安心感を生むかもしれませんが、それが自立につながるとは限りません。大切なのは、考えるための視点や問いを示すこと、そして本当に困ったときにだけ、そっと手を差し伸べる距離感です。過度な介入は、成長の機会を奪ってしまいます。
支援には「見守る勇気」が必要です。思うように進まない時間や、遠回りに見える経験こそが、後になって大きな意味を持つことがあります。すぐに結果を求めず、成長のプロセスそのものを信じ続ける姿勢が、支援の本質だと考えています。
双方向に育まれる関係性
メンタリングは、メンティーだけが成長する一方通行の関係ではありません。
関わる中で、メンター自身も問いを突きつけられ、学び続ける存在であり続けます。相手を信じるという行為は、自分自身の価値観や限界と向き合うことでもあります。
その意味で、メンタリングとは「教える関係」ではなく、「共に育まれる関係性」です。見本を示し、信頼し、必要なときに支える。その循環の中で、人は一人では辿り着けない場所へと進んでいきます。
本章のまとめとして
見本・信頼・支援という三つの姿勢は、特別な立場の人だけのものではありません。誰かと関わるすべての人に開かれた、人間的な態度です。
正解を与えないからこそ、人は考え、悩み、自分の足で立ち上がります。その過程を信じて支えることこそが、メンタリングの核心です。
本書では、このような関わり方を理論としてではなく、経験と実感を通して掘り下げていきます。人が人をはぐくむとは何か。その問いに向き合い続けるための一つの軸として、本章を位置づけています。
SPOTS BAR FEELFREEオーナー
宮﨑 善幸
