6-14-2 正解を持たない勇気

私たちは子どもの頃から、「正解を見つけること」を学んできました。学校のテストには正解があり、社会に出ても効率的な方法や成功事例が求められます。そのため、多くの人は無意識のうちに「正しい答え」を探す習慣を身につけています。しかし、人生やスポーツの現場において、本当に重要な問いには正解がありません。これからの時代に必要なのは、「正解を知る力」ではなく、「正解のない問いに向き合う力」です。
コーチやリーダーに求められる力の一つに「自己認識力」があります。自己認識力とは、自分自身の状態や価値観、感情、思考の癖を理解する力です。そして、その力を高める最も有効な方法の一つが「問いを持つこと」です。
例えば、「幸せとは何か」「なぜ生きているのか」「愛とは何か」「今日の自分は昨日より成長したか」「本当に生きたい人生を歩んでいるか」。こうした問いには模範解答がありません。だからこそ、その答えにはその人らしさが表れます。問いと向き合う時間は、自分自身との対話の時間です。普段は気づかない価値観や信念に触れ、自分の人生の軸を確認する機会になります。自己認識とは、自分を知ること。そして、自分を知るためには、自分に問い続ける習慣が必要なのです。
しかし、自分一人だけで自分を理解することには限界があります。人は自分のことを最も知っているようで、実は見えていない部分も多くあります。だからこそ重要になるのが「メンター」の存在です。人生や仕事、競技の中で、自分を客観的に見てくれる存在がいることは大きな支えになります。
優れたメンターは答えを与える人ではありません。むしろ、自分では気づかなかった視点や問いを与えてくれる人です。「本当にそれがやりたいことなのか」「なぜその選択をするのか」「あなた自身はどう思うのか」。そうした問いを投げかけてくれる存在がいることで、人はより深く自分自身と向き合うことができます。正解のない時代だからこそ、答えを教えてくれる人ではなく、考えるきっかけを与えてくれる人の価値が高まっているのです。
自己認識が深まると、人は主体的な決断ができるようになります。人が何かを決めるとき、大きく二つのパターンがあります。一つは周囲の意見に流されて決める人。もう一つは、自分の考えを持って決める人です。もちろん他人の意見を聞くことは大切です。しかし、最終的に責任を負うのは自分自身です。だからこそ、「自分はどうしたいのか」という問いから逃げてはいけません。
周囲が賛成する道を選ぶことは安心感があります。しかし、その安心感の裏側には「本当に自分で選んだのだろうか」という迷いが残ることがあります。一方で、自ら考え、自ら決断したことは、たとえ失敗したとしても納得できます。なぜなら、その経験すべてが自分自身の成長につながるからです。決断には自由があります。そして同時に責任があります。だから怖いのです。しかし、その怖さを受け入れて自ら選ぶことでしか、本当の成長は得られません。歴史を振り返っても、新しい価値を生み出した人はいつも少数派でした。周囲と違う考えを持ち、違う行動を選び、未来を切り拓いてきたのです。
さらに、正解のない時代を生き抜くためには創造性も必要になります。創造性とは、ゼロから何かを生み出すことではありません。既存の知識や経験を新しい形で組み合わせる力です。スポーツの世界でも、本当に大きな変化は競技の枠を越えた学びから生まれています。女子バスケットボールの3ポイントシュート戦略、サッカーのパスワーク、柔道やレスリングのコンタクト技術、フィギュアスケートの表現力、囲碁や将棋の戦略的思考。異なる分野には、競技や仕事を進化させるヒントが数多く存在しています。
そのために必要なのが「アンラーン(Unlearn)」です。アンラーンとは、過去の成功体験や常識を一度手放すこと。固定観念を外し、新しい視点を受け入れる勇気です。創造的な人は知識が多い人ではありません。異なる知識をつなぎ合わせる「類推力」と「情報編集力」を持った人です。そして、その出発点には必ず問いがあります。本当にこのやり方しかないのか。もっと良い方法はないのか。なぜ私たちはそう考えているのか。
問いを持つ。自分を知る。信頼できるメンターと対話する。そして、自ら決断する。さらに固定観念を手放し、新しい発想を生み出す。この循環こそが、人を成長させる原動力になります。
正解を探し続ける人生ではなく、自分なりの答えを創り続ける人生へ。これからの時代に必要なのは、正解を持つことではありません。正解がないことを受け入れ、それでも問い続け、自分で決め、挑戦する勇気です。その勇気こそが、自分らしい人生を切り拓き、未来を創造する力になるのです。
SPORTS BAR FEEL FREEオーナー
宮﨑 善幸
