4-8-4 自分の機嫌は自分で整える力

「自分の機嫌は自分でとる」――
この言葉は、上野由岐子選手が語った印象的な一言です。どんな場面でも感情に流されず、自分の役割を果たし続ける姿は、多くの人に安心感を与えてきました。その背景にあるのは、「感情を他人に委ねない」という強い自己管理の力です。

人は誰しも、思い通りにいかないときに感情が揺れます。試合の結果、仲間のミス、判定、環境――変えられない要因に心を乱されることは自然なことです。しかし、その感情をそのまま態度に出し、周囲に機嫌を取らせてしまう状態は、本人の成長を止めてしまいます。なぜなら、本来得られるはずの率直なフィードバックや健全な競争が失われてしまうからです。

ここにメンタリングの重要な視点があります。メンタリングとは、単に技術や答えを教えることではなく、「自分自身とどう向き合うか」を支援する関わりです。つまり、「自分の機嫌を自分で整える力」を育てることは、まさに人間的成長の核となるテーマなのです。

では、その力はどのように育まれるのでしょうか。まず必要なのは、「気づき」です。自分の態度が周囲にどのような影響を与えているのかを知ること。多くの場合、人は無意識のうちに表情や言動に感情を表しています。しかし、それがチームの雰囲気を重くし、信頼関係に影響を与えていることには気づきにくいものです。

ここでメンターの役割が生まれます。メンターは、相手を評価する存在ではなく、内省を促す存在です。大切なのは「何がダメか」を指摘することではなく、「どうありたいのか」を問いかけること。たとえば、「その態度はチームにどんな影響があると思う?」といった問いは、相手自身の気づきを引き出します。このプロセスを通じて、外からのコントロールではなく、内側からの変化が生まれていきます。

もちろん、人は一度の対話で大きく変わるわけではありません。だからこそ、メンターには「信じて関わり続ける姿勢」が求められます。変化のスピードを急がず、小さな前進を認めながら寄り添う。この積み重ねが、やがて「自分で整えられる人」へと成長させていきます。

この力は、オンザピッチだけでなく、オフザピッチでも大きな意味を持ちます。日常生活の中で、感情を整え、周囲に配慮した行動ができる人は、自然と信頼される存在になります。逆に、日常で感情をコントロールできない状態では、いざという場面でのパフォーマンスも安定しません。つまり、「人間力なくして競技力向上なし」という言葉の本質は、ここにあります。

映画 コーチ・カーター が示しているように、本当の成長は競技の外側にあります。日常の態度、時間の使い方、人との関わり方――それらの積み重ねが、いざというときの判断や行動を支えます。メンタリングとは、この“見えにくい部分”に光を当て、成長の土台を整える関わりなのです。

「自分の機嫌は自分でとる」。
それは単なる感情コントロールの話ではなく、自立した人間として生きるための基本姿勢です。そして、その力は、良質なメンタリング関係の中でこそ育まれていきます。指導者に求められるのは、正しさを押しつけることではなく、相手の可能性を信じ、気づきを支え続けること。その関わりの先にこそ、本当の意味での成長があるのだと思います。

SPORTS BAR FEEL FREEオーナー

宮﨑 善幸

目次