5-10-3 本音が出る瞬間

「本音で話そう」「本音が大切だ」という言葉はよく耳にします。しかし、私たちは日常の中で本当の意味での“本音”をどれだけ語れているでしょうか。むしろ、多くの場合、本音は意識的にも無意識的にもコントロールされています。もし人が常に思ったことをそのまま口にしてしまえば、社会はたちまち摩擦だらけになるでしょう。だからこそ、本音を抑え、調整しながら他者と関係を築くことは、社会を成り立たせるうえで必要な力でもあります。

一方で、本音を偽り続けることは、自分自身との距離を広げてしまいます。そこで重要になるのが、「誰に対して本音を持つのか」という視点です。私は、本音を最も大切にすべき相手は“自分自身”だと考えています。他者には配慮が必要でも、自分に対してまで本音を隠してしまえば、成長の軸がぶれてしまうからです。しかし実際には、自分に正直になることは簡単ではありません。理想の自分でありたいという思い、失敗を認めたくない気持ち、周囲からどう見られるかという不安。それらが重なり、本音を見えにくくしてしまいます。

スポーツの世界は、その本音をあぶり出す場です。勝負の世界では言い訳が通用せず、「勝ち」と「負け」という結果が突きつけられます。どれだけ準備を重ねても、最後は結果で評価される。その厳しさの中で問われるのが、「自分は本当にやり切ったのか」「仲間を信じ切れたのか」という問いです。ここにこそ、本音が現れます。

私が大切にしているのは「信じ切る力」です。試合は単なる技術や戦術の競い合いではなく、これまでの積み重ねを表現する場です。しかし、どれだけ準備をしていても、心のどこかで疑いが生まれれば、その迷いはプレーに影響します。逆に、不利な状況であっても、自分たちの積み重ねを信じ切ることができれば、チームは前に進み続けます。信じるとは、過信でも楽観でもなく、現実を受け入れたうえで覚悟を持つことです。

試合の前後に行う対話も重要です。自分自身との対話、そしてチームとの対話を通じて、本音に向き合う機会を持つことが必要です。特に試合後の振り返りでは、「あの時どうすべきだったか」「次に同じ場面が来たらどうするか」といった問いが、自分の本音を引き出します。人は同じ失敗を繰り返しますが、本音に基づいた振り返りがあれば、それは次への成長に変わります。

さらに、「もし自分が相手の立場だったら」と考える視点も、本音に気づく手がかりになります。自分の強みや弱みは、立場を変えて見ることでより明確になります。このような思考の往復が、競技力だけでなく人としての深みを生み出します。

私たちは誰しも、「理想の自分」と「等身大の自分」の間で揺れています。理想は成長の原動力ですが、現実とのギャップを直視しなければ、前には進めません。だからこそ、まず理想を言葉にし、次に現実の自分を言語化する。そして、その差を埋めるために、信頼できる他者からのフィードバックを受け入れる。このプロセスの中でこそ、本音が磨かれていきます。

本音とは、ただ思ったことを口にすることではありません。自分の内面と向き合い、現実を受け入れ、次にどう進むかを選び取る力です。勝負の世界に正解はありません。しかし、本音に向き合い、「信じ切る力」と「謙虚な振り返り」を持ち続けることで、人は確実に成長していきます。勝負とは、相手と戦うと同時に、自分自身の本音と向き合う営みなのです。

SPORTS BAR FEEL FREEオーナー

宮﨑 善幸

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