5-11-3 「何を問うか」が未来をつくる

予測困難な時代において、私たちに求められている力は何か。それは「正しい答えを出す力」以上に、「良い問いを立てる力」です。テクノロジーが進化し、AIがあらゆる情報を瞬時に提示できる現代において、答えそのものの価値は相対的に下がっています。むしろ、どのような問いを設定するかによって、思考の深さも、行動の質も、そして人生の方向性さえも大きく変わる時代になっています。
自己認識力の研究で知られるTasha Eurichは、著書『INSIGHT』の中で、「なぜ(Why)」ではなく「何を(What)」と自分に問いかける重要性を説いています。私たちは失敗や停滞に直面したとき、「なぜできなかったのか」と原因を探ろうとします。しかしこの問いは、時に自己正当化や言い訳を生み、思考を過去に縛りつけてしまいます。
一方で、「ここから何をするのか」という問いは、視点を未来へと向けます。行動を伴う問いであり、自分自身の選択と覚悟を引き出します。自己認識力が高い人ほど、「なぜこうなったのか」ではなく、「この状況で自分は何を選ぶのか」と問い続けているのです。
この視点は、教育や現場の育成において、メンタリングの本質とも深く重なります。メンタリングとは、単に答えを与えることではなく、相手が自らの内側にある可能性に気づき、主体的に選択できるよう支援する関わりです。その中心にあるのが「問い」です。どのような問いを投げかけるかによって、相手の思考の深さも、自己理解の質も大きく変わります。
大学でのレポート指導でも同様のことを感じます。AIを活用した文章は整っており、論理的にも優れています。しかし、人が書いた文章には、経験に裏打ちされた葛藤や違和感、そして独自の問いがにじみ出ます。この「問いの違い」こそが、文章の深みを生み出しているのです。
鳥潟幸志の著書『問いの設定力』でも、「問いを設定する力」が思考の起点であり、アウトプットの質を決定すると述べられています。どれだけ知識を持っていても、問いが浅ければ思考も浅くなります。逆に、良い問いを持つことで、思考は自然と深まり、本質に迫ることができるのです。
ここで重要なのは、「なぜ」と「何を」を対立させることではありません。「なぜ」は動機や価値観を明確にするために必要な問いです。しかし、それだけでは行動にはつながりません。メンタリングの現場でも、「なぜそう思うのか」という問いで内省を深めつつ、最終的には「では、あなたは何を選び、何を行動に移すのか」という問いに導くことが重要になります。
例えば、チームが結果を出せなかったとき、「なぜうまくいかなかったのか」を振り返ることは大切です。しかし、それだけで終わってしまえば、次にはつながりません。「次に何を変えるのか」「どの行動を選択するのか」といった問いに変換して初めて、変化が生まれます。ここに、メンタリングの実践的な価値があります。
また、「何を問うか」はリーダーシップとも密接に関係しています。これからのリーダーに求められるのは、答えを示すことではなく、相手が自ら考え、選択できるような問いを提示する力です。問いによって思考の方向性を示し、主体的な行動を引き出す。それが、メンタリング型リーダーの在り方です。
迷いや不安があるとき、人は過去に理由を求めがちです。しかし、その時間が長くなればなるほど、前に進む力は弱まります。だからこそ、自分に問い続けたいのです。
「なぜこうなったのか?」ではなく、
「ここから、自分は何をするのか?」
この問いを持てるかどうかが、未来を分けます。問いは思考をつくり、思考は行動をつくり、行動は結果をつくります。そしてその積み重ねが、人生そのものを形づくっていきます。
AIがどれだけ進化しても、「何を問うか」を決めるのは人間です。だからこそ今、私たちは問いの質にこだわる必要があります。良い問いを持ち続けること。それこそが、不確実な時代を切り拓く、最も確かな力なのです。
SPORTS BAR FEEL FREEオーナー
宮﨑 善幸
