5-11-1 良い問いが自分と他者を動かす

人の成長を支えるうえで、欠かせない力の一つが「自己認識力(セルフアウェアネス)」です。これは、自分の感情や価値観、思考の癖を理解し、言語化できる力と言い換えることができます。そして、この自己認識力を高めるための最も有効な手段が「問い」です。

メンタリングの現場において重要なのは、「答えを与えること」ではありません。むしろ、相手の内側にある考えや可能性を引き出すための「問いを投げかけること」に価値があります。良い問いは、相手の思考を深め、行動を変え、ときには人生の方向性すら動かす力を持っています。

例えば、「あなたにとって大切なものは何ですか」「今の選択は自分の望む未来につながっていますか」といった問いは、単なる情報のやり取りではなく、自己と向き合うきっかけを生みます。このような問いに触れたとき、人は初めて“自分の言葉で考える”状態に入ります。

さらに重要なのは、「問いを受ける側」であるだけでなく、「問いをつくる側」になることです。自分自身に対してどのような問いを立てるかによって、思考の深さも、行動の質も大きく変わります。
「自分は何を目指しているのか」「今の自分に足りないものは何か」「次にやるべき一歩は何か」――こうした問いを自ら生み出すことで、自己対話はより主体的で意味のあるものになります。

自己認識の研究で知られる Tasha Eurich は、著書 INSIGHT の中で、「Why(なぜ)」ではなく「What(何を)」と問うことの重要性を指摘しています。
「なぜできなかったのか」と問うと、人は過去に縛られ、言い訳や自己正当化に陥りやすくなります。一方で、「次に何をするのか」と問うことで、思考は未来へと向かい、具体的な行動へとつながります。

メンタリングにおいても同様です。相手が立ち止まっているときに、「なぜそうなったのか」と原因を追及するよりも、「ここから何を選択しますか」と問いを変えることで、主体的な一歩を引き出すことができます。問いは、過去を整理するためだけでなく、未来を創るために使われるものです。

また、これからの時代においては、「問いを設定する力」そのものが価値になります。AIの進化により、多くの答えは簡単に手に入るようになりました。しかし、どの問いを立てるかは人間にしかできない領域です。
問いの設定力 でも述べられているように、問いの質が思考の質を決定し、その思考が最終的な行動と成果を左右します。

メンタリングとは、相手に答えを教える関係ではなく、「問いを通じて自己認識を深める関係」です。そして同時に、「問いを共に創る関係」でもあります。相手が自分自身に問いを立てられるようになることこそが、本質的な成長と言えるでしょう。

だからこそ、日常の中で問いを持ち、問いをつくることが重要になります。
「自分は何を大切にしていますか」
「今の行動はどこに向かっていますか」
「次に何を選びますか」

こうした問いを繰り返し、さらに自分なりの問いを生み出していくことで、人は少しずつ自分の軸を明確にしていきます。そしてその軸が、変化の激しい時代においても、自分らしく生きるための土台となります。

良い問いは、人を変えます。
そして、自分自身に問いを立て続けることができる人こそが、他者の成長を支えるメンターとなるのです。

SPORTS BAR FEEL FREEオーナー

宮﨑 善幸

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